社長が退職金を2回受け取る?|非常勤への分掌変更と死亡退職金を組み合わせる資産承継の注意点

社長が退職金を2回受け取る?非常勤への分掌変更と死亡退職金を組み合わせる資産承継の注意点
長年、会社を支えてこられたオーナー企業の経営者様にとって、ご自身の引退と将来の資産承継は非常に重要な関心事ではないでしょうか。
会社に蓄積された利益を、どのようにして次世代やご家族へ引き継ぐべきか、多くの方が悩まれています。
今回の記事では、社長が常勤から非常勤へ移行するタイミングと、その後にもしも万が一のことがあった場合の2段階で、会社の資金をご家族へ還流させる仕組みについて分かりやすく解説します。
完全に会社を退くのではなく、非常勤として会社を支え続けながら、ご家族に無理のない形で資産を遺す選択肢があることを、まずは知っていただければ幸いです。
名古屋市天白区やその周辺地域で、これからの会社経営とご家族への資産承継のバランスについて考えておられる経営者様にとって、将来の進路を整理する一つのきっかけになれば嬉しく思います。
1.非常勤役員への変更と退職金を組み合わせるメリット
1-1.常勤から非常勤への移行時に支払う退職金
多くの経営者様は、社長の座を退くときが退職金を支給する唯一の機会だと考えていらっしゃいます。しかし、完全に会社を辞めなくても、退職金を支給できる法的な仕組みが存在します。それが、常勤の取締役から非常勤の役員への移行などに伴う、「分掌変更による退職金」です。
分掌変更とは、社内での役割や職務内容が大きく変わることを指します。社長としての激務を後進に譲り、ご自身は一歩引いた立場で会社を支える非常勤役員になる場合、実質的に退職したとみなされるケースがあります。このタイミングで1回目の退職金を支給することにより、法人の利益を適切に減らしつつ、個人の手元資金を厚くすることが可能になります。
1-2.分掌変更による退職給与の注意点とよくある勘違い
ここで多くの方が勘違いしやすいのは、肩書さえ非常勤に変えれば、いつでもいくらでも退職金を支払えるという点です。税務上、実質的な退職と認められるためには、形式的な変更だけでは足りません。具体的には、以下のような実態が伴っている必要があります。
📋 実質的な退職と認められるための主な実態
- 役員としての報酬が大幅に減少(概ね50%以上)していること
- 経営の第一線から退き、代表権やこれまでの重要な決定権を後継者に譲っていること
- 常時出勤するのをやめ、必要に応じた相談対応などに留まっていること
⚠️ これらが満たされていないと、税務調査の際に退職金として認められず、法人の経費(損金)から否認されるリスクが生じます。
2.非常勤役員のもしもに備える死亡退職金の手続きと税金
2-1.死亡退職金に認められている相続税の非課税枠
非常勤役員として会社を支え続けているなかで、もしも万が一のことが起きた場合、会社からご遺族に対して死亡退職金を支給することができます。非常勤であっても、会社への貢献度や過去の経歴を踏まえて適正に算出されたものであれば、支給自体は認められる傾向にあります。そして、この死亡退職金には、相続税の計算において非常に強力な税制上の優遇措置が用意されています。
💡 死亡退職金の非課税枠 = 500万円 × 法定相続人の数
2-2.現金で遺す場合と死亡退職金で受け取る場合の税負担の差
この非課税枠がどれほど大きなインパクトを持つのか、具体的な数字で確認してみましょう。例えば、法定相続人が配偶者とお子様2人の合計3人であるケースを想定します。この場合の非課税枠の計算は、500万円 × 3人 = 1,500万円となります。
| 遺し方の違い(1,500万円の場合) | 相続税への影響 |
|---|---|
| ① 個人名義の預金として遺す | 1,500万円の全額がそのまま相続税の課税対象に含まれる。 |
| ② 法人から死亡退職金として支給 | 非課税枠(1,500万円)の内側となるため、相続税の負担を大幅に抑えられる。 |
現金を個人の口座で眠らせておくよりも、法人を通じてご家族に届ける方が、結果として税負担を軽減できる可能性が高くなるのです。
※重要:死亡退職金の非課税枠の適用には、遺産分割の状況や受取人の要件など細かな規定があるため事前の確認が必要です。
2-3.法人が契約者となる生命保険を活用した原資の準備
非常勤役員の退職金や将来の死亡退職金を支払うためには、会社にそれだけの原資(現金)が用意されていなければなりません。いくら制度上メリットがあっても、会社の資金繰りを悪化させてしまっては本末転倒です。そこで、多くのオーナー企業で活用されているのが、法人が契約者となる生命保険です。毎月の保険料を支払う際は法人の経費としながら、将来に向けて着実に資金を積み立て、万が一の際には保険金をそのままご遺族への死亡退職金に充てることができます。これにより、会社のキャッシュフローを急激に圧迫することなく準備を進めることができます。
3.名古屋市天白区や周辺地域で確認したいこと
3-1.法人の出口戦略と個人の資産承継のバランス
今回のテーマは、法人の税務対策だけでなく、経営者様個人の相続対策や資産承継という2つの側面が完全に重なり合う部分です。天白区周辺地域でも、古くから地域に密着して事業を営まれているオーナー企業様が多くいらっしゃいます。自社株の評価や個人所有の不動産、会社の現預金をどのように引き継ぐか、まずは現状を一つずつ整理していくことから始める必要があります。
📌 事前に整理しておきたい自社の状況
3-2.適正な金額設定と税務リスクへの備え
非常勤役員への退職金や死亡退職金は、非常に大きなメリットがある反面、税務署からのチェックも厳しくなりやすい項目です。節税になるからという理由だけで、非常勤の実態に見合わないような高額な退職金を支給してしまうと、税務調査の段階で不相当に高額な部分として否認され、経費として認められない恐れがあります。
役員退職金の適正額を算出するにあたっては、一般的に「功績倍率」と呼ばれる基準などが用いられます。これまでの常勤時代の在職年数や最終報酬月額、あるいは非常勤になってからの貢献度などを総合的に考慮し、客観的な根拠を持った計算書類や議事録を作成しておくことが不可欠です。
※注意:事前の規程整備や議事録の未作成は、税務調査時に否認される大きな要因となるため、早期の対応が必要です。
森本経営会計事務所からのアドバイス
森本経営会計事務所 税理士 森本 雄一
非常勤役員の退職金は、実質的な職務内容の変更や支給額の客観的な根拠が非常に厳しく問われる論点です。税務上のリスクを避けるためにも、役員規程の整備や議事録の残し方、支給額の計算プロセスは慎重に進めなければなりません。これらの判断や事前のシミュレーションには、法人の過去の決算書や個人の資産状況など、総合的な資料の確認が必要となります。個別の事情によって取扱いが大きく異なるため、慌てて支給を決める前に、まずは現在の状況を一緒に整理してみることをおすすめいたします。
4.まとめ:次に行うことを整理しましょう
最後に、非常勤役員の退職金と死亡退職金の活用において、大切になるポイントを振り返ります。
- 分掌変更の実態を整え、肩書だけでなく報酬や職務内容を実際に変更する。
- 死亡退職金の非課税枠を正しく理解し、個人の現預金で遺す場合と比較する。
- 客観的な根拠を遺すために、適正な金額計算や規程の整備を事前に行っておく。
これからの具体的な第一歩としては、まず会社の役員退職慰労金規程が手元にあるか、最後に改定されたのはいつかを確認することから始めてみてください。もし資料が完全にそろっていなくても、今どのような決算状況であるかを確認するだけで、将来の選択肢を絞り込んでいくことができます。
役員の退職金問題は、単に法人税を減らすためだけの手続きではありません。経営者様が命がけで守ってきた会社から、長年支えてくれたご家族へ、税金負担を抑えた形で確実な財産を遺すための「最後のバトンパス」です。
ご家族の構成や会社の資金状況、さらには将来の不動産の相続登記や所得税の申告まで見据えると、最適な選択肢は一人ひとり全く異なります。
森本経営会計事務所では、名古屋市天白区周辺の地域に根ざした会計事務所として、経営者様ごとのご事情を丁寧に確認し、税務と会計の両面から状況を整理するお手伝いをしております。
将来の引退プランやご家族への資産承継について、少しでも不安や分からない部分がございましたら、どうぞ落ち着いて、まずは一度お気軽にご相談ください。











