インボイスをやめて免税事業者に戻るには?取消届出書の期限・「2年縛り」と、黒字経営を守るための判断ポイントを税理士が解説
💡 この記事のポイント(30秒でわかる要点)
- 取消届出書の期限:免税事業者に戻りたい課税期間の初日から起算して「15日前」までに提出が必要(土日祝でも延長なし)。
- 「2年縛り」の落とし穴:経過措置で登録した場合、登録開始日から2年を経過する日の属する課税期間までは免税事業者に戻れない。
- 取消後の注意点:登録を取りやめても、登録期間中の過去の取引に対しては修正・再発行などの「適格請求書交付義務」が残る。
- 判断のポイント:「単なる節税」で決めるのではなく、取引先への影響・粗利益・資金繰りを含めた「経営判断」として検討することが不可欠。
インボイスをやめて免税事業者に戻るには?取消届出書の期限・「2年縛り」と、黒字経営を守るための判断ポイントを税理士が解説
「インボイス制度が始まったとき、取引への影響が読み切れず、とりあえず登録した。でも、自社の取引先を改めて見直すと、やはり免税事業者に戻したい」。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)の開始から一定の期間が過ぎ、今後の事業方針をこう見直される中小企業の経営者や個人事業主の方が増えています。愛知県名古屋市天白区の森本経営会計事務所にも、こうしたご相談が寄せられるようになりました。
インボイスの発行事業者の登録は、手続きを行えばやめること自体は可能です。ただし、申請のタイミングや過去の登録時期によっては、「思ったとおりの時期に免税事業者へ戻れない」という落とし穴や、登録をやめた後も残る義務があります。
この記事では、インボイス登録を取りやめる際の実務上の留意点を整理したうえで、会社にお金を残して黒字経営を続けるために「今、自社の数字をどう見直すとよいか」までをわかりやすく解説します。
1. インボイス登録を取り消す基本ルールと「15日前」の期限
インボイスの発行事業者の登録をやめるには、税務署へ「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(以下、取消届出書)を提出します。
ここで最も注意したいのが、提出のタイミングです。
⚠️ 最も重要な「15日前ルール」
原則として、登録を取り消したい課税期間(個人事業主は1月1日〜12月31日、法人は事業年度)の初日から起算して15日前の日までに、取消届出書を提出する必要があります。
例:個人事業主が翌年1月1日から取り消したい場合 ➔ 前年の12月17日がひとつの目安。
この日を過ぎて提出すると、翌課税期間ではなく、さらにその次の課税期間(翌々課税期間)の初日からの取消しとなります。つまり、課税事業者として消費税を納める期間が想定より1年延びてしまう可能性があるということです。
なお、この日付は「期限」ではなく起算日から数える日として定められているため、土日祝日にあたっても翌営業日に後ろ倒しにならない点にも注意が必要です。日頃から自社の課税期間や納税予測を把握できていないと、思わぬ税負担につながる原因になります。
2. すぐには免税事業者に戻れない「2年縛り」の経過措置に注意
もう一つ、実務で見落とされやすいのが、経過措置を使ってインボイス登録をした場合の、いわゆる「2年縛り」です。
インボイス制度の開始にあたっては、本来は免税事業者だった方が「課税事業者選択届出書」を出さずに、登録申請書の提出だけで発行事業者になれる特例(経過措置)が設けられました。この特例を使い、制度開始(令和5年10月1日)を含む課税期間よりも「後」の課税期間から登録した場合は、注意が必要です。
この経過措置の適用を受けた事業者は、原則として「登録開始日以後2年を経過する日の属する課税期間」までは、たとえ登録を取り消しても免税事業者には戻れないとされています。
📌 具体例(個人事業主のケース)
令和6年2月1日にインボイス登録を受けた個人事業主が、「令和8年1月1日から取り消したい」と考え、期限内である令和7年12月17日までに取消届出書を提出したとします。
登録日(令和6年2月1日)から2年を経過する日は「令和8年1月31日」です。この日が含まれる令和8年(1月1日〜12月31日)は、ルール上、免税事業者になることができません。
➔ その結果、実際に免税事業者へ戻れるのは【最短でも令和9年から】となります。
このように、登録日が年の途中だと、2年を経過する日が翌年にずれ込み、免税に戻れる時期がさらに1年後ろ倒しになることがあります。仕組みを正しく把握していないと、「やめたいのにやめられない」という事態になりかねません。
また、これらとは別に注意したい点として、次のようなケースでは追加の確認が必要です。
- 自ら「課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者になっている場合は、別途「課税事業者選択不適用届出書」の提出も必要になります。
- 登録期間中に一定額以上の高額な資産(高額特定資産など)を取得している場合は、さらに長い期間、免税事業者に戻れないことがあります。
3. 登録をやめても「適格請求書の交付義務」は残ることがある
無事に登録取消が認められ、免税事業者に戻れたとしても、すべての義務から解放されるわけではありません。
実務上のポイントとして、インボイス発行事業者だった期間中に行った取引については、登録を取り消した後であっても、取引先から請求書の再発行や修正を求められた場合には、適格請求書を交付する必要があるとされています。
「もうやめたから関係ない」と対応を怠ると、取引先の経理処理に支障が出たり、大切な取引関係にひびが入ったりして、今後の売上や利益に影響しかねません。過去の売上データや請求書の発行履歴は、登録取消後もきちんと管理しておく体制が欠かせません。あわせて、登録を取りやめた事実は取引先へ丁寧に連絡しておくと、余計なトラブルを防ぎやすくなります。
4. インボイスの見直しは「節税」ではなく「経営管理」とセットで考える
インボイスの登録を続けるべきか、取り消して免税事業者に戻るべきか。この判断は、「消費税の負担を減らしたい」という節税の視点だけで決めるものではありません。
登録をやめれば消費税の負担は軽くなるかもしれません。しかし一方で、取引先から「インボイスが出せないなら取引条件を見直したい」「他の登録事業者に発注を切り替えたい」と言われる可能性もあります。そうなれば、会社の原動力である売上や粗利益(売上総利益)そのものが減ってしまうおそれがあります。
📊 インボイス検討時に確認すべき3つの数字
- インボイスを必要とする取引先との売上が、全体の何割を占めているか
- 免税事業者に戻った場合、粗利益や固定費、最終的に残る現預金にどう影響するか
- 資金繰りや将来の銀行融資を見据えたとき、どちらが会社を強くする決算書につながるか
これらを踏まえずに、決算直前になって慌ててインボイスの取消を検討しても、先ほどの「15日前」や「2年縛り」に阻まれて間に合わない、というケースは少なくありません。
だからこそ、毎月の数字の動きや取引先ごとの利益率を「月次決算」で見える化し、それをもとにした経営計画とあわせて考えておくことが、黒字経営を続けるうえで重要になります。インボイスをどうするかは、税務の手続きであると同時に、会社の利益とお金の残り方を左右する経営判断だといえます。
まとめ
インボイスの登録を取りやめるには、取消届出書の提出タイミング(15日前の起算ルール)や、経過措置による制限(2年縛り)など、消費税法のルールを正しくクリアする必要があります。また、登録取消後も、過去の取引について適格請求書の交付を求められることがあるため、データ管理も引き続き重要です。
そして何より大切なのは、インボイスの選択を「単なる税金対策」ではなく、会社の「利益」と「お金」をどう残すかという経営判断として位置づけることです。
✅ 今後のアクションプラン
- 登録を取り消したい時期から逆算して、届出のスケジュールを早めに確認する
- 免税事業者に戻った場合の売上・粗利益・資金繰りへの影響を試算しておく
- 毎月の数字を確認する月次決算を土台に、経営計画とセットで判断する
こうした流れを意識することで、目先の消費税だけにとらわれず、会社を健全に強くしていく判断がしやすくなります。
※なお、インボイス制度をはじめとする税制は改正が行われることがあり、個別の取扱いは会社ごとの状況によって異なります。実際に手続きを進める際は、最新の国税庁の情報を確認するか、税理士など専門家にご確認ください。
森本経営会計事務所からのご案内
税理士 森本 雄一
インボイス制度への対応やその見直しは、法的な要件だけでなく、自社のビジネスモデルや資金繰りにも直結する重要なテーマです。
【お問い合わせに関するお願い】
当事務所では質の高いサポートを継続的に提供するため、単発・無料での税務相談やスポットの質問対応は行っておりません。顧問契約をご検討されている企業様からのサービス内容やご契約に関するお問い合わせを受け付けております。
愛知県名古屋市天白区の森本経営会計事務所では、単なる税務申告書の作成にとどまらず、クラウド会計を活用した「月次決算の仕組みづくり」や、会社の先を見据えた「経営計画の策定」を通じて、中小企業が自社の数字をもとに判断できる体制づくりをお手伝いしています。「インボイスの選択も含めて自社の財務を見直したい」「継続的な顧問税理士として経営をサポートしてほしい」とお考えの経営者様は、ぜひ契約内容についてお気軽にお問い合わせください。
📑 根拠・参考資料
- 消費税法第57条の2第10項第1号(適格請求書発行事業者の登録の取消し)
- 平成28年改正法附則第44条(登録に係る経過措置および免税事業者となることの制限)
- 消費税法基本通達1-8-8(適格請求書等の交付義務に関する取扱い)
- 国税庁「D1-70 適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出手続」
※記載内容は記事作成時点の情報にもとづいています。制度は改正される場合があり、個別の適用時期や取扱いは自社の登録日・届出状況によって異なります。実務に適用する際は、最新の公式情報の確認、または専門家への相談をおすすめします。











