【税制改正】「103万円の壁」が178万円へ!人手不足を解消する人件費・黒字化戦略
【黒字経営専門税理士ブログ】「103万円の壁」が段階的に178万円へ引き上げ決定!税制改正をチャンスに変える中小企業の黒字経営と人件費戦略
多くの経営者や個人事業主の方々を悩ませている人手不足問題。その一因とも言われていた「103万円の壁」が、税制改正により段階的に引き上げられ、2026年(令和8年)分の所得税からは178万円が新たな基準となることが決定しました。
パート社員やアルバイトを雇用する中小企業にとって、この改正は単に「従業員の税金が安くなる」という話だけではありません。企業の労働力確保や人件費コントロール、ひいては会社の資金繰りや黒字経営の計画に直結する重要な転換点となります。
今回は、この税制改正の経緯と実務上の注意点を分かりやすく解説し、経営者が今から取り組むべき月次決算や経営計画を活用した先手を打つ戦略についてお伝えします。
1. 「103万円の壁」引き上げの経緯と経営者への影響
いわゆる「103万円の壁」とは、所得税の基礎控除と給与所得控除の最低額を合わせた金額のことです。これまでは、パートやアルバイトの年収が103万円を超えると本人に所得税がかかり、さらに扶養している配偶者や親の税金負担も増える仕組みになっていたため、年末が近づくと「就業調整」としてシフトを減らす従業員が続出していました。
この基準は一気に178万円になったわけではなく、2段階で見直されています。
- 2025年(令和7年度税制改正):基礎控除・給与所得控除の見直しにより、課税最低限が160万円まで引き上げ
- 2026年(令和8年度税制改正大綱・2025年12月決定):物価上昇に連動した控除の上乗せなどにより、課税最低限が178万円まで引き上げ
この結果、従業員は税金を気にせず、より長い時間働けるようになり、企業側にとっては年末の深刻な人手不足が緩和され、優秀なパート社員に活躍してもらえる大きなチャンスとなります。
⚠️ 実務上の注意点(源泉徴収のタイミング)
この178万円基準は2026年分の所得税から適用されますが、毎月の給与から差し引く源泉徴収税額表への反映は2027年1月以降に支払う給与等からとされており、2026年中の変化は年末調整でまとめて精算される見込みです。月次で数字を管理する企業にとっては、「年間の課税基準は変わったが、月々の源泉徴収の仕組みは今しばらく従来通り」という点を押さえておく必要があります。
2. 注意すべき「もう一つの壁」と社会保険のリアル
税制上の壁が178万円に広がったとしても、経営者が同時に頭に入れておかなければならないのが「社会保険の壁」です。
現在、従業員数などの一定の要件を満たす企業では「106万円の壁」、それ以外の企業でも「130万円の壁」を超えると、従業員本人が健康保険や厚生年金に加入し、社会保険料を支払う義務が生じます。この2つの壁は、企業規模によって使い分けられている点に注意が必要です。「106万円の壁」は主に従業員数50人超などの企業規模要件を満たす、いわゆる大企業で働く方が対象となる基準です。一方、それ以外の中小企業で働く方は「130万円の壁」(配偶者等の扶養から外れる基準)が適用されます。つまり、多くの中小企業にとって実務上より関わりが深いのは「130万円の壁」ということになります。
なお、「106万円の壁」の賃金要件・企業規模要件については、2025年の年金制度改正法により、今後段階的に縮小・撤廃される方向で進められています(賃金要件は2025年6月から3年以内に撤廃予定、企業規模要件も段階的に縮小・撤廃)。
一方、「130万円の壁」自体は撤廃されるわけではありませんが、2026年4月から判定方法が変更され、実務上は一定の条件付きで緩和されています。従来は「実績や見込みの年間収入」で判定されていましたが、2026年4月以降は労働契約書(労働条件通知書)に基づく契約上の年間収入で判定されることになりました。つまり、契約上の年収が130万円未満であれば、繁忙期の残業などで結果として実際の年収が130万円を超えても、それが「社会通念上妥当な範囲」にとどまる限り、直ちに扶養から外れることはありません。これに加えて、2023年10月から運用されている「事業主の証明」による特例も引き続き利用できます。
税金がかからなくなっても、社会保険料の負担が発生することで手取りが減ることを嫌い、結局130万円未満に労働時間を抑えてしまう従業員が出てくる可能性があります。しかし上記のような条件付きの緩和策を正しく理解・活用すれば、繁忙期の残業対応など、これまで「働き控え」の原因となっていた場面でも柔軟な対応が可能になります。経営者は、トータルでの働き方を従業員に提示し、理解を深めてもらう必要があります。
3. 具体例:時給1,200円のパート社員が働き方を変えた場合
愛知県名古屋市内の店舗で、時給1,200円で働くパート社員Aさんを例に考えてみましょう。
【これまでの「103万円の壁」】
Aさんは年間約858時間(月平均約71時間)しか働けませんでした。
【新たな「178万円の壁」】
理論上は年間約1,483時間(月平均約123時間)まで所得税を気にせず働くことが可能になります。
企業側としては、一人の熟練したパート社員の労働時間を大きく増やすことができるため、新しいスタッフを採用・育成するコストを抑えながら、現場の生産性を高めることができるようになります。ただし、実際の手取りには社会保険料負担も影響するため、Aさんが130万円(または106万円)の社会保険の壁を超えるかどうかも合わせて確認することが重要です。
4. 実務上のポイント:月次決算と経営計画で人件費の増加をコントロールする
パート社員の労働時間が増えることは売上アップにつながる一方で、当然ながら会社の人件費(固定費)や労働保険料の負担も増加します。ここで重要になるのが、場当たり的な経営ではなく、先を見据えた「月次決算」と「経営計画」の連動です。
あらかじめ経営計画で「人件費がこれだけ増えた場合、必要な粗利(売上総利益)はいくらになるか」をシミュレーションし、毎月の月次決算でその進捗をタイムリーに確認します。
特に、上述の通り源泉徴収の仕組みが2027年1月まで従来通りとなる過渡期には、年末調整時にまとめて生じる調整額を見込んでおくなど、キャッシュフロー管理の観点でも注意が必要です。毎月、数字の着地を確認する体制ができていれば、人件費の増加が資金繰りを圧迫する前に、適切な価格転嫁や業務効率化といった黒字経営のための次の一手を打つことができます。
5. 節税と現預金を残す経営判断の重要性
税制改正などの経営環境の変化に対応しながら会社にお金を残すためには、決算直前の突発的な節税ではなく、年間を通じた計画的な経営管理が必要です。
例えば、パート社員の活躍によって増えた利益をもとに、生産性を向上させるためのITツールやクラウド会計ソフトなどの「設備投資」を行う場合、税制上の優遇措置(中小企業投資促進税制など)を活用して賢く節税につなげることができます。
利益をただ税金対策として使い切るのではなく、経営計画に基づき、次の成長への投資として活用することこそが、本当に会社を強くする合法的な節税のあり方です。
6. まとめ
「103万円の壁」から段階的に進んだ178万円への引き上げは、人手不足に悩む中小企業にとって大きな追い風になり得ます。しかし、それを活かせるかどうかは、経営者が自社の数字をどこまで把握し、人件費と利益のバランスをコントロールできているかにかかっています。
制度の適用時期や源泉徴収への反映タイミング、社会保険の基準見直しなど、変化の激しい時代だからこそ、年に一度の決算だけで数字を見るのをやめ、毎月の月次決算で利益と資金繰りを見える化し、黒字経営の基盤を強固にしていきましょう。
森本経営会計事務所からのご案内
税理士 森本 雄一
今回の税制改正への対応をはじめ、会社にお金と利益を残すためには、事前の経営計画と毎月の正しい数字チェックが欠かせません。
名古屋市天白区に拠点を置く森本経営会計事務所では、単なる税務申告書の作成にとどまらず、中小企業の皆様が黒字経営を継続するための月次決算の導入や、人件費・資金繰りを含めた経営計画の策定を全力でサポートしています。「税制改正を機に、自社の数字をしっかり見直したい」「人件費の増加に負けない強い経営体質を作りたい」とお考えの経営者様は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
📖 根拠・参考資料
法令:所得税法第86条(基礎控除)、第28条(給与所得)など
税制改正資料:「令和7年度税制改正大綱」「令和8年度税制改正大綱」(2025年12月19日与党公表)、財務省・国税庁・厚生労働省等から発表される改正案内・リーフレット等
社会保険関連資料:令和7年(2025年)年金制度改正法(106万円の壁の賃金要件・企業規模要件の段階的縮小・撤廃)、厚生労働省「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いについて」(130万円の壁の判定方法変更、2026年4月適用)、「年収の壁・支援強化パッケージ」における事業主の証明による被扶養者認定の円滑化の取扱い
※実務上の補足:本記事は2026年7月時点で入手可能な情報に基づき作成しています。「103万円の壁」から160万円、178万円への引き上げの適用時期、源泉徴収への反映時期、経過措置、また社会保険(106万円・130万円の壁)の見直しの最終的な実務運用については、今後の政省令改正や国税庁・厚生労働省等の公式情報によって内容が変更・確定する可能性があります。最新情報のご確認、または実務適用にあたっては当事務所までお問い合わせください。











